古民家での小さな出来事

~ある暑い夏の日~

 

俺たちは、フリーランス数人で東京下町の谷根千辺りの古民家を借りて仕事をしていた。

駅からもずいぶん遠くて不便なんだが、家賃が安くて経費節減に効果テキメンだから仕方が無い。
皆それぞれ自宅をオフィスに活動していたんだけど、やっぱり生活雑音の中では仕事が出来ないと、お金を出し合って借りたと言うワケだ。

今風に、かっこ良く言えばシェアハウス?ソーホー?。そこは、借りた当初からほとんど手を入れてなく、前の住人かオーナーが残していったであろう古い家具や本、機械式の柱時計にブラウン管テレビなんかも室内アンテナと一緒にそのまま残されている。それは、もう映るはずもないオブジェと化している。

いつも和服を着ているコピーライターのサッちゃん。キリッとしていて姿勢が良くてかっこいい。1ヶ月に30冊ぐらい本を読むらしい。
クールに黒の服ばかりを着ているサブロー。フリーカメラマンでいつも大きな一眼レフカメラを持ち歩いている。演劇とか舞台の写真を撮っているらしい。

そして俺はグラフィックデザイナー。つまりは広告とか企業のPR活動の販促物をカタチにするお仕事。

と言う具合に、お互い深くは知らない集まりなんだけど、twitterで知り合ったと言うなんとも今風な繫がりだ。
まだ、一緒に同じ仕事をしたことがない奇妙な住人たちだ。

 

フリーランスにつきものの世間がお休みの時期にお仕事をすると言うやつで、この古民家に集まっていた。

それぞれ何にも言わないけど、休み前に仕事が入ってきたんだなと同業者なので安易に想像できる。

 

そんなお休みに仕事をしている最中に、暑い夏の空の雲行きが怪しくなってきた。
テレビニュースでも大げさに放送されていたが、大きな台風がこちらに近づいているのだ。直撃は無いにしろ古い家だからどうなるかわかるはずもない。なんとなく皆ソワソワしだして仕事どころで無い。

雨戸を閉めないと大変な事になると察したのか、皆で閉め始めた。なんせ築うん十年の木で出来た家。きっとタダではすまないな。

家の周りの廊下が全て雨戸で、こいつを全部占めないといけない。結構難儀なことだ。
このぐるり廊下にも置き去りの昭和な置き去り品がたくさんある。

古い電話機。薄いグリーン色の電話機だけど本体が黒電話に比べて薄くてスタイリッシュ。これは初めて見たなぁ。

古い本もたくさんある。ほとんどが紐で縛ってあって処分するつもりだったのだろうか?
古いものがたくさんあるのは異色のシェアハウスとしては味わい深いけど、無造作に積み上がっている古い本を見ていると”売っちゃえば良いのになあ”と普通に思った。

そんな事はどうでもよくって、、、、俺は和服のさっちゃんとカメラマンのサブローに少し振り向く様に声を発した。
「もう出る?向こうも締めて良い?」

返事が無いけど、勝手に進める俺。

勝手口の方で3人ほど外を見ている。なにやら大きな機械を狭い庭に搬入している。大きなテーブル状の作りで、その上には鉄の重たそうな機械のようなものが乗っかっている。
錆びた円盤状のノコギリが見えた。

「何あれ?」

「BASICから来たやつ」

BASICってのは、ここにいる皆の知り合いのデザイン事務所の名前。

同じ大きさの、少し違うカタチの機械が3つほど小さな雑草が生い茂る庭を埋め尽くした。それは、木を加工するマシーンだった。
何でまた?こんなに。。。何で?疑問に思いながら、

「木工屋でもやる?」

俺が言うと、みんな苦笑いしてる。

 

目の前の、小さな庭の柿木の枝が強風でざわめいていた。